仕事の流儀 株式会社MCIPホールディングス 代表取締役社長 株式会社スペースシャワーネットワーク 取締役会長 清水英明
|音楽業界・エンタテインメント業界有数のメディア・コンテンツ・ビジネスの企業として名だたるスペースシャワーネットワーク代表取締役社長、代表取締役会長から、今年4月には日本とアジアのコンテンツ交流を行っている会社の代表取締役社長に就任した清水英明さん。音楽に精通し、こだわりを持った方という想像を抱きがちな経歴であるが、実際にお会いしてみると非常に人間臭く、人と人との繋がりを重視する熱い人物であった。“人と人”そのキーワードを提唱する清水さんの思いを聞いてみたいと思う。インタビュアー: ジュリアナの祟り 蕪木蓮
“人と人”の繋がりを大切にする男・清水英明
キャリアのスタートはアジア
Q:清水さんのキャリアのスタートは商社ということですが、やっぱり国際的なビジネスに興味があったということですか?
A:学生の時には教育と福祉に興味があって公務員を考えていました。人と人がベース、人との関わりについてをやりたいと思ってたんですよね。でも国家公務員の2次試験を落ち、アジアにも元々関心があったので、アジアの人とビジネスを作るってことができるんじゃないかということで商社に入りました。
自分が何かすることでその人が変わるそして向きあいかたで変わる、そんなことに興味がありました。どういう分野やどういう業務がしたいってことは具体的にはなかったな。
長期的にコミュニケーションを取っていく、「プラント輸出」という仕事をしていました。大変だけどいろいろあるようなものが面白い。そんな気がしてました。
Q:海外に何度か赴任されていますがその時はどんなことをやっていたのですか?
A:中国では家電関係の技術移転もありましたが、その後タイなども駐在したが基本的には情報通信の仕事。電話、通信関係のプラント。93年、タイで電話事業の民間会社が新たにでき、それに出資参画して自分もそこで働きもしました。中国とタイは駐在していましたから、ある程度のレベルの中国語、タイ語はできます。他にも、レベルはまちまちですが、インドネシア、韓国、ベトナム、ミャンマー、カンボジアなど各国の言語は学んできました。
音楽業界への転身
Q:そこからスペースシャワーネットワーク*に入社され、音楽や映像の仕事をされるのですね。
A:商社を赴任地のタイで辞めて何年も働いてなかったんですよ。帰国してからも1年くらい毎日図書館行ってました。何にもやらずにブラブラ40過ぎて、さすがにまずいということで、それで昔の会社の先輩が心配しスペースシャワーネットワークで新しいプロジェクトがスタートするので、そこはどうかってことで、入りました。42歳で半年の契約社員、スペシャのことなんて何も知らないし。だから入ってからも他の求人サイトに登録して仕事探してました。仕事する気も全然なくダラダラ。でも3年ごろ経って、創業者の中井さんから、「お前全然仕事していないな」って言われ、仕事が与えられるようになったこともありました。また、その前にも、着メロが流行ってきたんで社内の反対にあいながらも、着メロモバイルサイト作って、それで少し社内で評価が変わったこともありました。
Q:そんな清水さんが音楽に前向きになりコンテンツをやり始めたのはなぜですか?
A:2006年にインディーズのCDを流通販売する会社の社長を突然、任されることになりましたが、その会社の周りには、すごい音楽業界の人がいたり、レーベルの厳しい業界人たちがいたり、仕事も大変でした。何やればいいとか社員も教えてくれないし、そこで、いろんなライブハウスに出かけていって、会社で扱っていたアーティストの音楽に触れていくようになりました。
スペシャにも在籍していたけど、40歳すぎて音楽業界未経験の中途入社の私には、アーティストや音楽のにおいがする業務とは遠かったので、インディーズ業界にかかわることから、一気に、アーティストの音楽への思いや活動の悩みなどに色々触れる機会がふえていきました。
Q:清水さんが昨年春のメジャーデビューまで、長らくセルフレーベル、セルフプロデュースでどこにも所属せず個人で音楽活動をしていたシンガーソングライターの半崎美子さんの音楽活動を応援サポートしてこられましたが、先日11/4の半崎美子さんの東京国際フォーラムAでのコンサートは感動でしたよね。
A:そうですね。そのたった半年前はCだったし・・・
Q:数あるインディーズアーティストの中から彼女のことを応援サポートしようとしたのは、どのような理由ですか?
A:決めたって言うわけじゃないけど、やっぱり、誰も手伝う人が居ないってことと、絶対にいつまでもやるんだぞっていう本人の強い気持ちと、それと、アーティストの感受性が自分と共通してるかっていうこと。考え方、価値観が合わなかったら全く一緒にやりたくはないので。あと根気。ぱっとやってすぐ売れる感じの人だったら、むしろ人が寄って来るんだろうけど、そうじゃなくたってとにかくずっと頑張るんだっていう揺るぎない気持ちを持ってる人なら一緒にできるなと思います。
Q:では音楽性と人間性は同じくらい大事ってことですね?
A:僕は完全に人間性。あとはシンガーソングライターだったら歌詞、それに声質。どんなこと考えてどんなバックグラウンドがあって、どういう活動、表現をしたいのかっていうのがあれば、技術は後からでもついて来ると思います。
Q:人間に興味があると言う清水さんならではですね。
A:そう。だから作家でもアートでも。どうしてもこういう表現をせざるを得ないという強い気持ちがあるかどうかっていうのに強い関心があるんですね。だからそう言う人をどうしたら価値が高まるのかっていうことに関心がある。だからこれは人に限らず地域の観光資源とか潜在的なものでも、もう少しこういう風にしたら価値が高まったり広がったりするんじゃないかということをやりたい。イベントや映像のコンテンツに対しても同様の考えです。
2014年MCIP*設立。その関わりは?
Q:清水さんは設立から関わっていたのですか?
A:全然。知りもしませんでした(笑)。吉本興業とクールジャパン機構が中心になって会社作ってスペシャは後から出資をしたわけですよ。その後いろいろありこの4月からMCIPの2代目社長になったということです。
Q:MCIPのプロジェクトで『住みます芸人』というのは聞いたことがあるのですか、実際に彼らはアジア各国に住んでいるのですか?
A:吉本興業の芸人をアジアの各国に実際に住まわせているプロジェクトです。3年半前からやっているプロジェクトで、まずは6カ国、10月の末にはミャンマーが加わり7カ国になりました。21人。言葉もなにも知らないで行って、住んで、現地で言葉も覚えながら生きてく方法を見つけていく。現地で仕事作らなきゃいけないし自分を作っていけないし、帰ってこれないし、友達も作んなきゃならないしネタも作んなきゃいけないし、そのくらい覚悟持って頑張ってないと、人が応援したいって気にはならないですよね。個人的にも彼らはよく頑張ってると思いますね。
Q:芸人さんたちは立候補ですか?
立候補です。だって、吉本興業なんて6000人も芸人が居て売れるなんて一部なんだから、売れるためにはなんとかチャンスを掴んで行こうって、それは「売れたい」っていう気持ちから来てるんですけど、皆積極的ですごいですよ。待ってたって仕事なんて来るわけないし、自分から動いて状況変えて行こうっていう部分には僕も共感します。何のサポートもあるわけじゃないけど、仕事も取って来るし、メディアにも自分たちで行くし、相手にされなくてもまた行くし。漫才というかパフォーマンスも、現地語で、現地で受けるようなものを観察してやってます。日本で凄い受けたものをアジアでドーンっていうわけでもなく、元々日本でも売れてなかった人たちが、戦う土俵を変えて、新しく挑戦しているって感じです。
Q:会社としては「住みます芸人」が切込隊長としてアジアに行って、現地の方々と仲良くなったりすることでなにかの土壌を作ろうという目的もあるのですか?
A:そうですね。プラットフォームを作るということにもなってますね。彼らが動いて、メディアにも行って、タレントや業界の友達もできて、例えば映像作ってくれとかそういう話になることもあるし。やっぱり場を持って人を置いとくとその周りに人が来るから。やっぱり単発ではなかなかダメ。恒久的に同じ場所でやり続けることが意味があると思います。だからネットワークを作るためのプラットフォーム作りとしても僕は考えています。行った芸人自体も売れて欲しいとは思ってます。1人でも2人でも売れてくれれば、それに憧れてまた出てくるってこともあると思いますし、全体的な価値が高まることも出て来ると思います。
Q:最後に読者にメッセージ頂けますか?
A:1つ目は、熱意、情熱、努力、強い思いが周りを動かす。それは圧倒的に大事だと思います。次に、タイミングに関しては、世の中が変わることがあるし、努力すれば自分が変わってくことがあると思うので、だからはじめることに関して早すぎるとか遅すぎるとかもないと思います。僕自身も50を前にしてインディーズで本当に頑張っている人に出会い、動かされて音楽を勉強したというように変わることってできると思うんですよね。最後に、エンタテインメントや文化に於いてはソフトのパワーを信じることが大事だと思います。感受性が高く人が喜んだり驚いたりする顔を見たい、更に、人の痛みとか悲しみがわかる人じゃないとダメ。人と人が関わることだと思うから。
*スペースシャワーネットワーク
音楽を中心としたメディアの制作及び放送・配信、コンテンツ事業、ライブハウス運営、フェス事業など多岐に渡る総合エンタテインメント企業。
*MCIP
日本のコンテンツをアジアに輸出、及びアジアでの現地と共同でのコンテンツ制作事業を行う総合エンタテインメント企業。
PROFILE
清水英明(しみずひであき)|1958年福井県生まれ。東京大学卒業後伊藤忠商事入社、アジアでの生活を経験する。その後スペースシャワーネットワークに入社し、平成23年には代表取締役社長に就任。平成30年同社取締役会長、及び株式会社MCIPホールディングス代表取締役に就任
INTERVIEWER
蕪木蓮(ジュリアナの祟り)
今回インタビューをさせて戴き、私自身アーティストとして勇気付けられました。人間性が素晴らしく、今までよりもっと清水さんへの憧れが強くなりました。