仕事の流儀 株式会社ランティス 代表取締役社長 井上俊次

その道のプロが切り開いてきた道を掘り下げる “仕事の流儀”。今回はアニソン界をけん引する株式会社ランティス代表取締役社長、そしてミュージシャンとしても活躍している井上俊次氏に話を伺った。株式会社ランティス 代表取締役社長 井上俊次

アーティストそしてスタッフが成長できるような環境作りをしていきたい

──そもそもアニソンの定義とは何ですか?

やはりアニメ作品で使用される主題歌やエンディングテーマなどが、基本的にアニソンといわれます。日本は音楽をよくジャンル分けしたがりますが、海外ではアニソンとしてジャンル分けされることはほぼありません。今は日本でもアニメ作品にバンドなど様々なアーティストの楽曲が使用されているので、垣根はわりとなくなってきていると思いますね。

アニソンに特化したレコード会社としてのこだわり

──バンダイナムコグループとして、関係会社の経営をいくつもされていますが、アニメ市場が右肩あがりに伸びている要因は何だと思いますか?

ランティスは1999年に4人でスタートしたので、初めは世界で一番小さいレコード会社だったと思います(笑)。アニメに特化したレコード会社にしようと思い立ち上げましたが、今や社員は70人くらいまで増えました。立ち上げたころは、定番のアニソン歌手がアニメの主題歌を歌うのが主流で、そういった歌手たちが一同で集まって開催するイベントも、当時は少なかったと思います。

また、一般の方が好きなアニソンやアニメを友達と語り合う場も非常に少なかったのではないでしょうか。それが時代と共に少しずつ受け入れられながら、いろいろなスタイルのアニソンやアニメが生まれてきました。その影響もあり、アニメイベントが増え、周りを気にせず友達と一緒にイベントへ参加するようになってきました。また、J-POPや J-ROCKの歌手やミュージシャンが単にタイアップとして参加したり、現状の音楽活動で苦労している歌手が、最終的にアニソンを歌うことが多かったのですが、今は初めからアニソン歌手を目指している方々も多く、とても華やかなジャンルに変化したなと思います。

── ランティスのアニソン展開は日本のみならず、海外にも目が向けられていますよね。
ヨーロッパが少し出遅れているという印象だったので、AmuseLantis Europe S.A.S.という会社をアミューズと一緒に昨年設立しました。フランスに本拠地を作り、アニソンのみならず日本のアーティストが海外へ進出するのを手助けしていくのが、一番の目的です。今では北米や、中国をはじめとするアジアを中心にアニソンを展開していて、近年イベントを数多く開催しています。

──現在でも月に数十タイトルCDをリリースし続けていますよね。

形のあるパッケージを大切にしていくのがランティスの姿勢です。パッケージとして最高のジャケットを作り、音楽以外の部分でもこだわりながら制作していく気持ちを大切にしたいと思っています。もちろん今の時代なので、出荷数が500枚も満たないタイトルが多いのも現状です。それでも自分の作品がパッケージとして売られ、作品が残るのはとても大切なことだと思います。ランティスは他のレコード会社とは違い、CDの売上や利益が最優先ではありません。私たちはCDという目に見えるものを売ることで、アーティストの向上心を支え、さらには大規模なライブまでできるように育てていくことを目標にしています。

──今、注目しているアーティストはいますか?

ランティスのアーティストはみんな大好きだし、注目していますよ。しいて言えば、僕のバンド“LAZY”かな(笑)。デビュー40 周年を迎え約6年ぶりに新曲を出すので、期待して頂けると嬉しいです。12月にライブを開催する予定ですので、皆さん楽しみにしててください。

長年において音楽活動に

携わる井上社長のルーツとは

──音楽を始めたきっかけとは?

小2の時からクラシックピアノを始めたのですが、中学校に入り友達の影響で軽音楽に目覚めました。バンドではキーボードやドラムを担当していて、当時はクイーンやディープ・パープルが好きでしたね。高校生になり、影山ヒロノブくんに出会ってロックバンド LAZYのキーボードとして活動を始めました。LAZY時代、テレビのオーディションに出演した際にムッシュかまやつさんに声を掛けて頂き東京に上京し、プロで4年ほど活動したんです。

──ロックバンドとして活動してきたわけですが、アニメの世界に入っていくようになったのはなぜでしょうか?

アニメの仕事は楽曲制作から入りました。20歳の時にLAZYが解散してから、別のバンドで10年くらい活動していたんですけど、なかなかバンド活動が難しくなってきて。その苦しい時代にアニメのイメージソングのアレンジや作曲依頼が来たんです。その後もアニメ系の楽曲制作の仕事が徐々に増えました。特にアニメ化された人気コミック「サイレントメビウス」の楽曲を担当した時は、近未来的な作品だったので、ロックテイストに作り上げ、自分なりに工夫しました。その時、すごく仕事が充実していたのを今でも覚えています。それがきっかけとなって僕たちはいろんなジャンルのサウンドを取り入れて、アニメの世界観を膨らませながら新しい発想で、アニソンを作りたいと思いました。それに賛同したアーティストたちが集まり、最終的に自然とプロデュースする側に立ったんです。

今後のアニメ・アニソン業界におけるランティスの役割

──年間400本近くのアニメイベントを開催している中で、イベントを通して一番に伝えたいことはありますか?

自分自身バンドをやっていたからこそ、楽曲を制作してアルバムを発売したらライブを披露したいのは当然のことだと思っています。アーティストがその実力をもってライブをすることは必然的なことですが、ライブ経験のまだ少ないアーティストには、こうゆう音楽をライブでやってみたら面白いとか一緒に考えてみたり。また、声優さんの場合でも本業とは別の新たなジャンルへの挑戦なので、その環境をいかに快適に作れるのかが大切だと思っています。アーティストが成長する過程でライブを行うことはとても必要なものだと思って取り組んでいます。

──音楽業界にて様々な経験をされていますが、その中でも変わらない信念とは?

単に採算が取れないからという理由で、CDをリリースできないような会社にはしたくないです。クリエイターと話が通じ合えないような会社にもしたくないと思っています。とにかく、アーティストやスタッフのケアをしっかりしたいと思っています。最近、ハイウェイスターという音楽事務所を立ち上げました。アーティストをしっかりサポートしたいと思い、ライブで重要なPAなど、エンジニアの育成にも力を入れていきたいと思っています。

──最近ではライブ・イベント業界の裏方スタッフが減少している傾向があるようです。

実際には女性スタッフは増えましたよね。照明やPAや舞台監督とか。活発的でしっかりした女性が増えたことはすごくいいことだと思います。ただ男性が辞めてしまうことが多くなってきているのが残念です。ライブを開催するには様々な裏方スタッフが協力しあい、成り立つものです。スポーツでいう団体競技であり、体育会系であれば規律が大切ですよね。ランティスもバンダイナムコグループの一員ですので、就業規程の見直しや新しいルールを自分たちで作って、経営者として人員確保と育成に努めなければなりません。それでも人が増えないのであれば、システムを変えていかなくてはならないと考えています。

──ランティスがこれから目指すライブ・イベントの形とは?

先日アメリカ・ロサンゼルスで開催した、「Anisong World Matsuri at Anime Expo 2017」では、1万8千人を動員することができて、アメリカでの初のアニソンイベントとして成功を遂げました。その時、感じたことがあって、ステージを設営するための搬入関係のシステムがすごくスムーズになっていて、スタッフの作業効率の良さに驚きました。現場での事故やけがを軽減するために、日本でもそういった快適な環境を整えて行くことが必要だと思います。また、アメリカのスタッフは働く時間や休憩時間が決まっていて、それぞれの分業もはっきりしています。もっというと、スタッフ専用の立派なケータリングルームもあってみんな食事を楽しんでいるんですよ。そういう部分も日本のライブ・イベント業界に取り入れることが必要だと思いますし、裏方として働きたい人も増えるかも知れないですよね。

井上俊次の仕事を拝見!

playing piano
ランティスの事務所にて。「ピアノを弾いてください」というお願いにも、快く応じてくれた井上社長。華麗な手つきで演奏を披露。
ランティス祭り2014~つなぐぜ! アニソンの”わ”!~
2014年7月から11月にかけて東海・関西・関東・東北の 4都市で開催した「ランティス祭り2014~つなぐぜ! アニソンの”わ”!~」では、ランティス設立15周年ということで、9 公演でのべ 7万人を動員。会場は大いに盛り上がっていた。
井上氏が所属しているLAZYが、40周年を記念して2017年秋以降に新曲を発表する予定。またリリースに伴い12月にライブの開催が決まっている。

PROFILE

井上俊次(いのうえ しゅんじ)| 1977年ロックバンド LAZYのキーボーディストとしてプロデビュー。その後、音楽プロデューサーに転身。1999年アニメ、ゲーム音楽に特化したレコード会社ランティスを設立。『涼宮ハルヒの憂鬱』『黒子のバスケ』『ラブライブ!』等アニメ音楽でヒットを放つほか、JAM ProjectやOLDCODEX等アーティストの育成やライブ活動にも国内外へ精力的に力を入れている。また、日本音楽制作者連盟や日本音楽出版社協会等の団体理事も務めている。