作詞家:及川眠子インタビューVol,1
|歌謡曲からアニソンまで幅広い曲を世に生み出してきた作詞家 及川眠子氏。作詞家としてのポリシーや、彼女がプロデュースする「八方不美人」について聞いた。
まず「及川眠子」というお名前は筆名ですよね?先ずはその由来を教えてください。
及川 :画数が少なくてインパクトのある名前がいいと思ったんです。シンガーソングライターの吉田美奈子さんの1stアルバムで「ねこ」っていう歌があるんですが、その曲の歌詞で最後の「ねこ」の表記が眠子(ねこ)になっていて「これはいいな!」って思ったんです。「眠」っていう字はあまり名前では使わないですし。よく読み方を聞かれるんですが、「ねこです」っていうと覚えてもらえるんです。特に猫好きだからとかではないです。(笑)
確かにあまりないお名前なので印象に残りますね!そんな及川さんですが、作詞をするときは曲が先なんですか?それとも詞が先なんですか?
及川 :両方あります。曲が先に出来上がっている方が、イメージがある程度固定されるので詩が描きやすい場合が多いです。メロディをどう生かすかなども詞でコントロールできますし。
作詞って色々な内容やシュチュエーションがあるかと思うのですが、及川さんが詞が浮かびやすい環境などはありますか?
及川 :まず締め切りがないと描きませんね(笑)自分の中でスケジュールを組んで、締め切りに合わせて作業を始めるんですけど、多分24時間365日何かしら考えているんだと思います。フワフワと自分の中で色々な言葉やイメージが漂っていて、その中からつかんできているんですね、感覚的に説明すると。だから、突如何かが降りてきたっていうものでもないんですよ。
今までたくさんの曲の作詞を手がけた中で、特に思い入れのある歌詞や曲、または記憶に残っている曲はありますか?
及川 :世に出た楽曲に思い入れは一切ないです。「レコーディングを終えた時点で、歌は歌い手、歌い手から放たれたものは世間の物」っていうスタンスは崩さないんです。ここで作詞家が思い入れを持つのは違うと思っています。色々な替え歌とか、アレンジしたいとか言われることがあるんですけど、基本的に私は全部OK。カバーしたいって言ってもらえるのは、その楽曲が認知されていることにもなりますし、嬉しいことです。分かりやすく言うと、里子に出した感じですかね?あれはもう他所に行った子なんだからって。思い入れがあるのは、書いたのに世に出なかったものですね。たくさんはないですけど。
「及川眠子さん」と聞くと、どうしてもアニメ「エヴァンゲリオン」の「残酷な天使のテーゼ」や「魂のルフラン」が必ず出てくると思うのですが、「エヴァンゲリオン」の曲を作るきっかけや思い出話などはありますか?
及川 :たまたま私の当時のマネージャーがキングレコードに行った時に、エヴァンゲリオンの音楽プロデューサーの大槻俊倫さんを紹介されたので、向こうも「及川さんのマネージャーに出会ったんだから、及川さんにお願いするよ」って。別の作詞家に決まっていた人がいたみたいなんだけど、なんか大槻さんの勘が働いたらしく・・・(笑)
本当に偶然の縁なんですね?
及川 :そうですね。Winkの「愛が止まらない」も似たような感じです。他に頼んだらその人が忙しかったから、当時のマネージャーが「新人なんだけど、いい作詞家がいるから使ってくれないか?」と。「あぁ、いいよ〜」みたいな軽いノリだったようです。
エヴァンゲリオンに関しては、アニメと、曲がすごいリンクしていますよね?
及川 :私は今でも完成したアニメを見たことはないんです。主題歌を書く時って本編がまだ出来上がっていない状態で、だから企画書とか絵コンテとかを参考に書くんです。エヴァンゲリオンに関しては2話分のビデオを渡されたんですが、色も台詞もところどころ入っていない状態のものでした。主題歌が流れるシーンの映像も出来上がったものを見ないとわからないんです。
最近ですと、ドラァグクイーンユニットの「八方不美人」さんのプロデュースもされていますけれども、八方不美人をプロデュースしたいと思われたきっかけというのはなんだったのですか?
及川 :それは中崎英也さん(作曲家)と私の酒の勢いかな(笑)
完全にその場のノリだったんですね?(笑)彼女たちのデビュー曲「愛なんてジャンク」では捨てられてしまう女性の悲哀などが表現されていますけれども、詞のイメージと彼女たちが持っている独特の雰囲気や、「歌ってもらいたい」っていうものはあったんですか?
及川 :女装って女になりたい人たちではなく、女をデフォルメしているんです。言い換えれば、女を歌舞(かぶ)いて演じているような感じです。だから針はどっちかに振るっていう。多くの人はLGBTへの理解があまりないからゲイ=女装とか女になりたい人たちとかって思ってしまうんですね。彼女たち(八方不美人メンバー)は普段は男ですよ。あの姿はパフォーマンスをするためのもの。演歌歌手がスパンコールのジャケットを着るとか、羽織袴を着るのと同じようなもので、彼らなりのフォーマルなんです。
「愛なんてジャンク」は女性の悲哀を表現していますけど、先日配信先行でリリースされた「地べたの天使たち」はガラッと曲調も変わって爽やかな応援ソングですよね?
及川 :爽やかではないですけどね。だって「地べた」だから(笑)。歌詞の中で「とりあえず笑っていよう バカみたいでも」というフレーズがあるんですが、人ってそこまで賢いわけではないのに、賢いフリをするんですよ。たぶんバカにされたくないからなんでしょうけど。この歌詞はそれを逆手に取ってるんです。「いいじゃん、バカで。もっと楽に生きようよ?」って。
では「地べたの天使たち」を作る際はそういったことを考えながら作ったということですか?
及川 :先に「今までの情念的な感じではなく、別のところに針を振りたいっていう。」という話はありました。同じことを繰り返していてもやっぱり飽きられますから。応援ソングというか・・・レインボーパレードを意識したんです。みんなで一緒に歌えるような楽曲を作りたいと思って。私も周りにもLGBTや障害者の方々がいますけど、そういった方々って「minority(少数派)」と位置付けられてますよね。でもその「minority」がたくさん集まると「majority(多数者)」になるっていう考え方なんです。
〜Vol.2へ続く〜