不思議を絡めての恋愛話が必殺の一撃 漫画家・北崎拓先生インタビュー Vol.2

漫画『このSを、見よ!』などの“クピドの悪戯シリーズ”で知られ『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~』を連載中の北崎拓先生に、大ファンを公言する江夏亜祐さん(バンド・エナツの祟り Dr./リーダー)が初対面しインタビュー!
漫画家のお仕事や作品づくりのリサーチ、そして今後について、BANZAI編集部と共にさらに詳しく伺いました。漫画家を目指す方も必見です!

北崎拓先生

北崎拓先生

漫画家のお仕事とは?

BANZAI編集部(以下B):漫画家はどんなお仕事でどのような一日をどのような場所で過ごしているのでしょうか?

北崎拓:漫画家さんのタイプによりけりだと思うのですけど。僕は今は2週間に1作品描くスタイルですけど。
雑誌の週刊連載の頃でしたら、7日間ありましたら、たとえば月曜日に打ち合わせをして、“ネーム”と呼ぶお話を考えます。当時でしたら、20ページくらいのお話を20ページに分けてコマを割って、キャラクターはこういうので、セリフはこんなことを言って、というお話の設計図をつくる。

つくっているのは一日ですけど、寝て、描き始めて徹夜して、寝て……と、だいたい足掛け2日くらいの感じで。それを編集さんに見てもらって、直すところがあれば直す。

もしくはそのままオッケーだったら、そこからコマを割りはじめて、原稿用紙に下描きをし始める。アシスタントさんを呼んで、背景とかを入れてもらう。それが3日から4日かかる。だいたい7日まるまる使ってそれくらい。
それが半日早くできれば半日休めるし、半日延びればスケジュールがずれていくし、というパターンでやっていました。

今は隔週連載なので2週間に1度になっているので、やや楽にはなりましたけど、その分だけページ数は増えたりします。

時間があったらあった分だけ使って描いちゃいますので、相変わらず家にこもりきって仕事をしています。コロナでずっと外に出るなって言われても、それまでもずっと出ていなかったので(笑)。苦痛でないわけではないのですけど、ずっとこもりっきりでした。

口で言うと大したことではなさそうではあるけれど、実際は20ページ分くらいの下描きを24時間くらいで全部入れて、それからペン入れするっていう……。やっぱり24時間でつくっていきますので、ちょっと変な仕事ではありますよね。

B:労働というか創作活動でしょうけど、創作プラス労働みたいな感じですよね。

北崎:体力勝負ではありますよね(笑)。

B:すごく時間がかかりますよね。

北崎:そうですね。労働であるし体力勝負ではあるけど、どんなものも大まかに言うと、アイディアだけでは形にならなければ人には伝わらないものですし、音楽でも作曲してそれを紙に書いただけでは伝わらないっていうことだったりとか、演奏にしたってパフォーマンスの形で伝えるにはそこに練習だったりが要るのと同じで、漫画家はそれが全部家の中でできる分だけ、まだ楽というか……。

性格にもよりけりですけど、人に伝えて人を楽しませるという意味では多分同じことだと思うのですけどね。あとは自分がどっちを得意とするか。僕は人と一緒に何かをやるよりは一人で黙々とが得意というか楽なので。

B:ご自宅が仕事場でいらっしゃるのですか?

北崎:そうです。

B:昔ですと紙にペンで描いているというイメージですが、今もそうなのですか?

北崎:今は全部デジタルにしました。もう何年ぐらいになるのですかね。『このSを、見よ!』の途中からデジタルとアナログの併用になってきたというか。それまでもデジタルを部分的には使っていたのですけど、原稿自体をデジタルでやるようになってきたのは、中盤以降くらいですかね。今では紙はほとんど使わない状態です。

液晶のでっかい画面があって、コンピュータにつないでコンピュータの中で全部線を引いてやるので。パソコンが壊れるとデータが吹っ飛ぶのと一緒なので大変ですよね(笑)。

江夏亜祐(エナツの祟り):漫画家さんはAppleユーザーが多いのですか? それともWindowsなのですか?

北崎:僕はAppleではじめたのですけど、途中でMacのバージョンが変わってしまって、絵を描くソフトを総入れ替えしなきゃいけない時だったのです。それをやるにはお金がかかりすぎるし、Windowsが一般的になってきたので、いろいろなソフトがWindowsでしか動かないし、Macだと選択肢が限られるというのがあったので、そこで思い切ってWindowsに切り替えて、今はWindowsの環境でしています。
Macのファンは多いので、漫画家さんやクリエイターさんはMacが多いですね。今はMacでもソフトはWindowsのものをのせられたりしますし。

作品づくりのためのリサーチは?

B:現場のリサーチはしたりするのですか? 場所とかロケハンのような……

北崎:それはしますね。今連載中の『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~』*の話は殆ど家の中と予備校を行ったり来たりしていて、わざとそんなふうにしてできるだけ舞台を移さないようにしてはいるんですけど。
今までは必要があれば取材として地方に行ったりとか、背景とか主人公が……たとえば『このS』だと江の島のところであったりとか、あのときは取材に行って、どういうコースで歩いたりとかをやると、話も思いつくのですよね。
これくらいの距離感があるから、主人公がここからここまで走ったら面白いとか、もしくはここで立ち止まったら面白いとか、画が見えるので、ある程度必要だと思います。

B:編集者はどのくらい作品に関与されるものなのですか? 調べものをしたりとか。

北崎:それはよくしてもらいます。まず打ち合わせをするときに、今はリモートですけど、ファミレスとかで、ずっと6時間とか向かい合って、次こうしたら面白いのじゃないかって話をしたり、あとはそれは面白くないですよ、とか言われたりして(笑)。

一同:(笑)

北崎:あとはずっと家にこもって仕事をしないと間に合わないので、写真を撮ってきてくださいってお願いすることもありますし。いろいろ詳しく知っていらっしゃるので、いい感じで頭よさそうなこと言いたいのだけど、思いつかないので(笑)、参考になる文献とかないですかね、みたいなことを言ったら、それを調べていただいたりとかして。非常にお願いすることは多いです。

今後やってみたい事は?

B:漫画に限らず、今後やってみたいことは?

北崎:やってみたいことですか(笑)。結構な年ですから、何本漫画を描けるかなという事だけですよね。まだまだ描きたいと思っていますけど。若い頃だったら、恋愛ではないものを描いてみたら新しい世界が開けるのではないかとか、ちょっとずれた野心みたいなものはあった気はしますけど、今はもうそんなに何本も描ける年数がないなと思って、描きたいものをしっかりと描けるだけ描いてしまいたいっていうのが、仕事の面でやりたいことですね。

今後のテーマは?

北崎:実はお土産に色紙を。

江夏:めっちゃうれしいです! すごい! ありがとうございます!

北崎拓先生と江夏亜祐

北崎拓先生にサイン色紙をいただいた江夏亜祐さん。
特に大好きな『このSを、見よ!』のキャラクターが描かれています。

北崎:この色紙で久しぶりに『このS』のキャラを描くために、髪型とかは検索すれば描けるのですけど、ヒロインの千鶴ちゃんは描かなくなってだいぶ経つので、自分の中に消えているわけです。サインの一枚絵とはいえ、描くためにもう一回自分の中に呼び起さなきゃと思って見直しはしたのですよね。

連載で描いていた当時は一生懸命でしたけど、今は全く他人を描いたかのような感じで。今も自分に一番面白かったのは親父編のあたりからだし、ラストシーンは単行本にだけおまけで付いているという漫画なのですけど、あの家族で話しているラストシーンがあってよかったなっていう気がすごくしたのですよね。

なので『このS』って家族の絆の話だったと言えばいいのですけど、でも家族の良い部分ではなく悪い部分で構成されていて……。悪い部分を肯定しようみたいな意味ではないのですけど。

『クピドの悪戯』シリーズの『惑いのレイコ』はまたちょっと違ってどちらかというとお笑いに近い感じで描いたのですけど、『このS』を描いてしまって以降は不思議を絡めての恋愛話が必殺の一撃だった気がするのです。

江夏:めっちゃぎゅっと詰まっているなっていう。家族がそれぞれトラウマを抱えていて、それを自分に重ねてというところから、だんだん浮き彫りになっていく。そこにはもっと深いところがあるなって。本当の本当に僕は人生で一番好きな漫画だなと思って、何度も読んでいるのですけど。

同シリーズの前作『オレ×ヨメ』を読んだときにそういうテーマなのだと思って。その後の『このS』は総集編みたいなものとして描かれたのですかね?

北崎:どうなのですかね。でも僕はこれが終わりだとも、僕の中にある恋愛漫画のテーマだとも思っていないのですよ。よくこれを描いたなと思う反面、こういう家族とかそういったものを描くときに、ポジティブじゃない部分をすごく描いて、描いたその先がきっとあるはずだとも思うのです。

まだこれはそのための一歩前の段階なのかなって気はしたのですよね。特にこの色紙を描くために、昨日『このS』を久々にまとめて読んで。
なので『このS』のテーマは何だったのですか? と言われると、昨日見たばっかりだけど、まだ何とも言えないなって(笑)。もう少し考えさせてください(笑)。

江夏:ぜひ、楽しみにしています。大好きな人とはプラトニックで、すごいお話だなって。

北崎:それは肯定なのか否定なのかっていうところで、性の否定だと捉えられるのもまた違うので。しないことのほうが純愛だろっていう捉え方をするのも違うし。そんなふうな描き方になってないのかっていう……。
『このS』の中では正しかったと思う反面、それを世に向かってこれが僕の答えだって言っていいのかというと、それも違うと思って。

今連載中の『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~』*もそれに対する答えの一つをずっと模索している話だとは思いますけど。そんなことを考えながら、またしばらく描いていきたいなと思います。

月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~ 1巻 書影

*『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~』北崎拓
高い学歴を正解と信じている主人公とヒロイン、二人の出会いは最初から間違いの恋。この恋は果たして正解へと辿り着くのか?
『サンデーうぇぶり』(夜サンデー)にて連載中。
試し読みはこちら https://www.sunday-webry.com/detail-yoru.php?title_id=582
購入はこちら https://csbs.shogakukan.co.jp/book?book_group_id=14269
5巻は小学館から2020年10月12日発売予定電書版は10月1日から発売中

江夏:毎回まだかなまだかなって思いながら、いつも楽しみに読んでいます(笑)。今日はどうもありがとうございました!

北崎:ありがとうございました。

NEWS 今回のインタビューがきっかけで、北崎拓先生とエナツの祟りのコラボが決定!

エナツの祟りの新曲『無敵シュプレヒコール このSを、聴け!』(11月11日配信リリース)のジャケットとMVに北崎拓先生のイラストが!
詳細はこちら

PROFILE

北崎拓(きたざき たく) | 漫画家。兵庫県出身。1966年7月27日生まれ。1984年『英雄行進曲』でデビュー。『ますらお ―秘本義経記―』シリーズ、『なぎさMe公認』、『クピドの悪戯』シリーズなどの作品を手がける。『クピドの悪戯 虹玉』はテレビドラマ化もされた。
現在、『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~』が小学館『夜サンデー』にて連載中。『ますらお秘本義経記 波弦、屋島』が少年画報社『ヤングキングアワーズ』にて不定期連載中。
また、新刊『月に溺れるかぐや姫~あなたのもとへ還る前に~ 5巻』が小学館 (夜サンデーコミックス) から2020年10月12日発売予定電書版は10月1日から発売中
北崎拓 公式Twitter:https://twitter.com/takukitazaki
北崎拓 公式ブログ:『クピドの裏側(出張版)』:http://takukitazaki.blog109.fc2.com/

INTERVIEWER

江夏亜祐(えなつ あゆ) | バブリー系エンタメバンド・エナツの祟り(ex.ビートたけし命名・ジュリアナの祟り)のDr.でリーダー。全楽曲の作詞・作曲・編曲・プロデュースを行っている。にぎり寿司の考案者・華屋与兵衛の子孫。鴨川ふるさと大使。パール楽器製造株式会社エンドースメントアーティスト。